冬菜かしこの「自由に 気ままに エッセイ」の日々

二人娘と一緒に遊んで、学んで、楽しんでいるアラフィフ小学生ママの記録です。

【エッセイ】ペーパードライバー講習

 

 

昨日から、ペーパードライバー講習に行っている。

これは初めての経験である。

学生時代に普通自動車免許は取得したが、

ペーパー専用は初めてである。

そして、教習所は30年ぶりだし、

当時はマニュアルミッション車であったし、

勝手が違うこともあるだろうと思っていた。

その昔、マニュアルミッションで、

坂道でがったん、ごっとん、

途中で脱輪してがががっ、

色々と苦労していた教習所あるあるを思い出し、

少し緊張した面持ちで行ったのである。

 

ところが、今回の講習は学生時代と違い、

オートマ専用での講習であった。

もちろんどちらか選べるのではあるが、

私は迷うことなくオートマを選び、

まずは校内の練習場を運転することになった。

 

およそ、9年ぶりの車の運転である。

運転席に座るだけでも

ドキドキが止まらない。

何をどうしたらいいものやら。

とにかく先生の指示に従っていくしかないかと、

その時私は腹をくくった。

 

それにしても。

その先生は、とにかく、指導が細かかった。

座席の高さ、背面の角度、座席の位置、

ハンドルの持ち方、ウインカーの出すタイミング、

道幅に対しての車の位置。

もちろん、そこまで徹底しなければ、

事故を防ぐための運転指導はできないのであろうけれど。

「そんなに注意事項ありましたっけ?」

と思わず聞きたくなる多さであった。

 

うへえー、こまかー。

思わず心でぶー垂れる私。

とはいえ、こちらは指導を受ける側。

大人しくしていないと、

「あの人の運転は危険だ!」

とでも判断されかねない。

このさき何度も受け直しがあると、

私のふとごろ具合に影響があるかもしれない。

 

1回5200円の講習料金。

決してお安くはない料金設定である。

これは何としても先生に機嫌よく、

「安全運転できていますね」

と言って、OKをもらわねば。

ひそかに私は気合が入ったのである。

 

一日目の校内運転を経て、

その結果を気にしていた私に、

「こういっては何ですが」

と先生が前置きをした。

 

「こういっては何ですが?」とは?

その枕詞に続く言葉に、

嬉しそうな要素はひとつもない。

私は身構えた。

1回余分に講習を受けるのか?

50分の運転講習を、

少々後悔し始めた。

 

続けて先生は言った。

「大丈夫だと思います。

次は路上をしてみますかね。

お金もかかることですし、

どうするかはおまかせしますが」

とのことだった。

どうやら、次回、路上講習を受けてもいいし、

受けなくても、まあ、いいよ、的な感じ。

 

あっ、そう。

校内講習うまいこといったんだ。

よかった、よかった。

でもさ。最初の前置き、いる?

まぎらわしいねんっ!

ちょっとしたイラ立ちは覚えたものの、

結果として次の路上につなげられたので、

まあ、いいかと、胸をなでおろした。

 

よーし、次は本丸だ。

路上運転へと進んでやるぞ!

と無駄に意気込んで、

校内運転の日を終えた。

 

翌日、路上運転に出た。

昨日の先生ではなかった。

今日は、やけにきさくなお喋り好きな先生であった。

昨日が少々かたぶつっぽい、

もとい、真面目な先生であったので、

今日も緊張していたのだが、

その心配はしなくてよさそうだ。

少し肩の力が抜けて、

公共の道路へと車を走らせた。

 

最初は自宅付近を走り、

「この道知っている」

となって、落ち着いて運転できた。

けれどそのうち、

当然ながら自宅からは遠く離れていった。

主人の助手席でしか走ったことがないエリアに行くと、

再び緊張感がおそってきた。

そして、問題が発生した。

 

3つ目の信号を右です、とか、

次の交差点左です、とか。

先生の指示に従うのは良いが、

だんだん打ち解けた先生が、

いろいろお喋りをするようになってしまったのである。

 

もちろん、本格的な雑談ではなく、

車や道路に関することである。

しかし、こちらは肩の力がパンパンに入りまくっている、

ペーパードライバーなのである。

そないに先生の話に注力するわけにはいかない。

運転に集中したいけれど、返事もしないわけにはいかない。

気が散って仕方ないが、

先生のおしゃべりは止まらない。

 

本当に集中しまくっている時は、

先生の話は耳の中をかすめていった。

仕方なく、「すみません、もう一回」

と言って、先生に話を繰り返してもらい、

返事をするようになった。

何回か繰り返すうちに、

おしゃべりもやむだろうと踏んでいたが、

先生のおしゃべりは一向に止まらなかった。

結局、言葉が少なくなったのは、

50分の路上講習から教習所に向かう、

道すがらくらいだったように思う。

よくしゃべる先生だった。

 

そういえば。

学生時代に友達に聞いたことがある。

「教習所という場所には、お喋り好きな先生がいるもんだよ」と。

 

運転が得意だというその子は、

その筋の良さから、教習所の先生から、

あまり指示はされなかったという。

どんどん上達する生徒に気をよくした先生が、

どんどん雑談を盛り上げていき、しまいには、

「教習中なのに、映画のストーリーを全部言わされた。

運転したというより、お喋りした、って感じ」

とこぼしていた。

それもどうなのか、と思った覚えがある。

 

私のように、運転技術がおぼつかないタイプも苦労するが、

彼女のように、運転がうますぎても苦労するのだと、

その時私は学んだのである。

 

ということは。

先生がお喋りしてくれるということは、

それだけ運転が出来ているということ?

私は一瞬、喜びかけた。

が、しかし、考え直した。

1回5200円。

今は閑散期だから、4200円に負けてくれるというが、

それだけのお金を出して、

雑談で終わったのでは、到底納得はできない。

 

そして、路上講習の結果を聞くと。

「あとは、ご主人に隣に乗ってもらって、

練習したらいいんじゃないんですか」

と先生は笑顔でそう言ってくれた。

「本当なの?本当に、しっかり見てくれていた?

おしゃべりに夢中になっていなかった?」

そう思ったが、言えるはずもない。

「自宅の車でしっかり練習しよう!」

と私は教習所を後にした。

 

こうして。

無事にペーパードライバー講習を経た私は、

晴れて、自宅の車を運転して良い身となった。

先生が「あと3回は乗らないと!」とでも言おうものなら、

あきらめてあと3回は講習を受けただろうけれど。

一応お墨付きをもらえたなら、

あとは自分で頑張ってみるかと思ったのである。

 

9年ぶりに、私が運転を再開することに対する、

うちの家族の反応と言えば。

 

「自分で車買って乗れば?」

「こすらないでよ」

などと主人に釘を刺され。

 

「ママ、無事に帰ってきてね」

「ママと一緒には、乗らない」

と娘たちに心配される。

そんな具合である。

 

ペーパードライバー講習を受けて、

気をよくしていた私に、

家族は冷静な判断を下し、

私の天狗っ鼻を、ぽっきり折ってくれたのであった。